2026/06/21
「給食に緑茶」は面白い挑戦だった——でも、少し浅はかじゃなかったか
「和食と合う」給食に緑茶 小学校でもスタート カルシウム量は月・年度単位で調整 福岡市
https://news.yahoo.co.jp/articles/2dfc9b3337a55f2c170a57d30b578156b52f0bc5
給食に緑茶が出たけれど…低学年を中心に大量の飲み残し 飲み慣れていない子供多く 福岡市の“牛乳なし給食” 市長の強い思いも
https://news.yahoo.co.jp/articles/f35608777a2bd0bbc50c987d4733ddda0f954a73
まず、やろうとしたこと自体は評価したい
「さばの塩焼きに牛乳」——この組み合わせに子どもの頃から違和感を覚えていた人は少なくないはずです。和食の献立に牛乳が並ぶのは日本の給食の長年の慣習ですが、「正直、合わないよな」と感じながら飲んでいた記憶がある方も多いのではないでしょうか。
福岡市が2026年度から給食に緑茶を提供し始めたのは、そのモヤモヤに対してとうとう自治体が動いた、という意味で注目に値します。和食の日には牛乳ではなく緑茶を——という発想自体は筋が通っており、「現状を変えようとする試み」として素直に面白いと思います。こういうチャレンジは、どんどんやるべきだとも思います。
実際、初日には「ご飯やサバはお茶を飲んだ後に食べるとおいしい」「お茶のおかげでサバが少し好きになった」という児童の声も上がりました。大人の感覚としては「そうだよね」と頷ける正直な反応です。
ところが、結果はどうだったか
しかし、初回から約2週間後に出てきた続報は、少し違う現実を伝えていました。
- 低学年を中心に大量の飲み残しが発生
- 廃棄量は牛乳の日の約20倍という報告も
- 「普段、緑茶を飲み慣れていない子供たちが多かった」と市側も認める
牛乳の20倍の廃棄。これは失敗と呼ばざるを得ません。食材のロスが出たのはもちろん、給食を楽しみにしていた子どもたちが「苦くて飲めない」という経験をしたことも見逃せません。
問題の本質:大人の味覚で設計してしまった
「和食に緑茶は合う」——これは間違いではありません。ただし、それはあくまで大人の味覚の話です。
緑茶の苦みは低学年の子どもにとってかなりのハードルです。しかも現代の家庭で子どもが日常的に緑茶を口にする機会はそう多くありません。麦茶やジュース、水が主流の家庭が大半でしょう。「大人が美味しいと感じる飲み物」と「小学校低学年が日常的に飲める飲み物」は、イコールではないのです。
「飲み慣れていない子が多かった」——これは実験前から予測できた話です。少し調べれば、あるいは小規模な事前テストを一度やれば、ほぼ確実にわかったはずのことでした。
それがなぜ見落とされたか。報道によれば、この取り組みは「高島市長の強い思いから実施されていた」とのことです。首長の熱量が高い施策が検証を飛ばして全校一斉実施される——このパターンは行政でしばしば見られる構図です。理念が先行して、肝心の「受け手(子ども)の視点」の確認が後回しになってしまいました。
カルシウムの帳尻合わせも気になる
栄養面でも、気になる点があります。給食1食あたりのカルシウム摂取基準は333mgですが、緑茶提供日の献立では合計53mgにとどまりました。基準の約6分の1です。
市の教育委員会は「月単位・年度単位で調整するため、基準は満たせる」としています。制度上の説明としては成り立つかもしれません。しかし子どもの体はその日その日に栄養を使って成長しています。年度末に帳尻が合えばよいという考え方を、成長期の栄養管理に持ち込むことには疑問が残ります。
改革を進めるなら、「飲み物を変える」と「栄養基準を守る」を同時に解決する設計が必要でした。片方を後回しにしてスタートするのは、少し軽率だったと言わざるを得ません。
「麦茶・ほうじ茶」への転換は正しい方向、でも
追加報道によれば、市の教育委員会は「秋以降は麦茶やほうじ茶の提供も予定し、子どもたちの意見も聞きながら来年度以降を検討したい」としています。麦茶やほうじ茶は苦みが少なく子どもに馴染みのある飲み物なので、方向転換としては正しいと思います。
ただ一言添えるなら——最初からそうすればよかった、という話でもあります。「まず緑茶で試して、ダメなら麦茶に」ではなく、「子どもが飲めるものから小規模に検証して段階的に広げる」という順序が本来の姿だったはずです。スモールステップで始めていれば、大量廃棄は避けられた可能性が高い。
挑戦は続けてほしい、ただし順序を守って
「和食の日に牛乳以外の選択肢を持ち込む」という試み自体は支持します。現状に疑問を持ち、変えようとすることは大事です。給食の飲み物を見直す議論が始まり、子どもたちの意見を聞く仕組みが動き始めたことは、今回の取り組みが生んだ副産物として評価できます。
ただ、改革には順序があります。どれほど理念が正しくても、「受け手が本当に受け取れるか」を確認しないまま実施すれば、食材は廃棄され、子どもたちには「苦い経験」だけが残ります。小規模な検証を経て、結果を見ながら広げていく——この手順は、面倒に見えても飛ばしてはいけないプロセスです。
今回の飲み残しという結果を次の設計に活かしてほしいと思います。子どもたちが「今日の飲み物、何かな」と楽しみにできる日が来るかどうかは、大人側の学び方にかかっています。
※本記事は報道各社の公開記事をもとに作成しています。数値・事実関係はFBS福岡放送・TNCテレビ西日本の報道(2026年6月)に基づいています。