2026/08/01
「全国初」の公園が高槻にできるまで——地域共生社会という実験
大阪府高槻市の川添一丁目に、2029年春、「たかつき未来パーク」がオープンします。市はこの施設を「全国に先駆けた地域共生社会のモデル空間」と位置づけています。年齢や障がいの有無にかかわらず、誰もが集い、交流し、生きがいを持てる場所。そんな理想を、67億円をかけて現実にしようとしています。

「地域共生社会」とは、どういう社会か
「地域共生社会」という言葉は、2016年の「ニッポン一億総活躍プラン」に登場し、厚生労働省が翌年から本格的に推進を始めた概念です。定義としては、「制度や分野の枠を超えて、支える側・支えられる側という従来の関係を超え、人と人・人と社会がつながり、一人ひとりが生きがいや役割を持ちながら助け合える包摂的な社会」とされています。
背景にあるのは、少子高齢化と核家族化による地域コミュニティの弱体化と、福祉制度の縦割り問題です。障がい者支援・高齢者介護・子育て支援・生活困窮者支援がそれぞれ別々の窓口・制度に分断されてきた結果、「どの制度にも当てはまらない」人が取りこぼされてきました。たかつき未来パークは、その解決策を「場所」という形で示そうとする試みです。
「誰でも来られる場所」を設計する難しさ
施設の機能構成を見ると、その設計思想が見えてきます。屋内にはパラスポーツにも対応した多目的ホール・スタジオ、キッチンスタジオ、クラフトルーム、障がい者アートを展示するギャラリー・ショップ、コワーキングスペース、カフェ・ベーカリー。屋外には「インクルーシブ広場」として障がいのある子どもも使えるインクルーシブ遊具が設置されます。さらに移動困難者向けの一時避難スペースも備えた防災機能まで持ちます。
「誰でも来られる」という言葉は簡単ですが、実現はそう単純ではありません。車椅子の方が使いやすい動線、視覚・聴覚に障がいのある方への配慮、子どもから高齢者まで同じ空間で過ごせる設計——それらを一つの建物に盛り込む設計は、通常の施設整備より格段に複雑です。民間10社からなる「たかつき共創パートナー」(NECキャピタルソリューションズグループが中心)がPFI方式で設計から運営まで一括で担うことで、縦割りにならない一体的なアプローチを目指しています。
ワークショップが先、建物が後
施設はまだ建設中ですが、動きはすでに始まっています。2026年6月には障がいのある子どもとその家族を対象にしたワークショップが実施されました。テーマは「既存施設での困りごと」と「新施設への期待」。約30名の参加者の声を設計・運営に反映させる取り組みです。
整備予定地はかつて市営の植木団地が立地していた場所で、解体を経て更地になっていました。整備に合わせて川添公園も完成し、消防署分署も着工されています。単なる施設の移転ではなく、地域ごとつくり直す再開発として進んでいるのです。
「全国初」の重さ
「全国初のモデル空間」という肩書きは、期待であると同時にプレッシャーでもあります。全国から視察が来ることは確実で、うまくいけば他の自治体に広がる、うまくいかなければ「やっぱり無理だった」と参照される——そういう立場に高槻市は自ら飛び込んでいます。
2029年春のプレオープンまで、まだ数年あります。ワークショップを重ね、設計を煮詰め、運営の仕組みを作り込む時間です。「誰もが集える場所」が本当に誰もにとっての場所になるかどうかは、建物の完成ではなく、開いてから積み重なる日常が決めることになります。高槻市の実験は、まだ始まったばかりです。