2026/06/25
地震のとき、一番困るのはトイレだと、広報誌が書いた

島本町の6月号広報誌の特集タイトルは「もしもの災害 避けられないトイレのハナシ」です。
防災の特集といえば、備蓄品の一覧、避難経路の確認、ハザードマップの見方。そういう内容が定番です。その中で島本町は今月、「トイレ」を選びました。
防災訓練で「トイレはどうしますか」と問われる機会は多くありません。でも実際には、大きな地震のあとで最初に困ることのひとつが、これです。水より先に、食料より先に、トイレが問題になる場合があります。
地震のあと、何が止まるか。
まず水道管が損傷します。地中の水道管は強い揺れによって大きな負荷を受け、亀裂が入ったり破裂したりします。水道管が壊れると水圧が低下し、蛇口から水が出なくなります。
マンションなどの高層建物では、別の問題があります。給水ポンプが止まります。高い建物では水道本管の水圧だけでは上の階まで水を届けられないため、電気で動く給水ポンプで水を押し上げています。地震で停電が起きると、このポンプが止まり、水が届かなくなります。高層階の住人ほど、断水は早くやってきます。
さらに、下水道管の問題があります。地中の下水道管が損傷していると、下水が詰まって汚水が逆流してきます。このときにトイレを流そうとすると、便器から汚水が噴き出します。広報誌にはそう書いてあります。
蛇口から水が出ない。流そうとすると汚水が逆流してくる。これが地震直後のトイレの現実です。
仮定の話ではありません。
2018年6月18日、大阪府北部を震源とする地震が起きました。最大震度6弱。高槻市や箕面市など北摂エリアで断水が発生しました。島本町は高槻市と隣接しています。
あの日の朝、多くの人が揺れのあとにトイレへ向かったはずです。水を流そうとしたら出なかった、という経験をした人が、このエリアに実際にいます。
広報誌はそのシーンを漫画で描いています。「地震だ」「ホッとしたら、トイレに行きたくなちゃった」「あれっ?トイレの水が流れない!」という吹き出しとともに。
断水は数時間で終わるものではありません。ライフラインの復旧には優先順位があります。電気は比較的早く復旧しますが、水道管の修復には時間がかかります。2018年の大阪府北部地震でも、地域によっては数日間の断水が続きました。その間、トイレを使うたびに何かを考えなければなりません。
2024年1月の能登半島地震でも、大規模な断水が長期間続きました。被災地でのトイレ問題は繰り返し報告されています。それでも防災の備えの話でトイレが先に出てくることは、まだ少ない。
防災の備えとしてよく言われるのは「水3日分、食料3日分」です。
でも、トイレはどうするかという話は、あまりされません。
理由はいくつかあると思います。話しにくいテーマだということ。食料や水に比べると、漠然と「何とかなる」と思われがちだということ。そもそも普段の生活でトイレに困ることがないため、なくなったときのことを具体的に想像しにくいということ。
でも実際の災害現場では、水や食料よりも先にトイレが問題になることがあります。阪神・淡路大震災では、避難所でトイレが使えなかったために水分を意図的に控える人が続出し、それがエコノミークラス症候群や別の健康被害につながったという記録が残っています。
食べなければ何日か耐えられます。飲まなくても2〜3日は持ちます。でも、トイレはそうはいきません。数時間のうちに問題になります。
対策はあります。
携帯トイレは、水を使わずに用が足せる凝固剤入りの袋で、ドラッグストアや防災グッズのコーナーで買えます。使用後はポリ袋に密封して燃えるごみとして出せます。数百円から売っており、家族の人数分を備えておくことができます。
ポリ袋と凝固剤を別々に用意する方法もあります。便器にポリ袋をかぶせ、凝固剤を使って固める。水道が止まっていても、下水道管が壊れていても使えます。
避難所にはマンホールトイレが設置される場合があります。下水道管に直接つながった仮設トイレで、断水中でも利用できます。ただし、夜中に一人で、高齢で、あるいは子どもを連れて、外の設置場所まで行けるかどうかという問題は残ります。
島本町の情報を見ると、避難所にはマンホールトイレが配備されています。でも自宅にいる間はどうするか。避難するまでの数時間、あるいは避難しないと判断した場合に、どう対応するか。広報誌は対策の列挙よりも前に、「問題があること」を伝えることに力を入れています。
この特集が伝えているのは、おそらく備えの「順序」についてです。
地震が来た直後、多くの人の行動は「揺れが止まった」「ケガはないか」「外に出る」という流れになります。トイレのことは後回しになりやすい。
でも、揺れが止まってから数時間以内に、トイレの問題に直面します。そのときになって初めて「備えていなかった」と気づく。
備えは、気づいてからでは間に合わないことがあります。
「避けられないのハナシ」というタイトルは、正直だと思います。
トイレは避けられません。地震が来ても、夜中でも、停電でも、断水でも、人はトイレに行きます。その当たり前のことを、かっこよくなく、でもちゃんと正面から書いた広報誌がある。
島本町はJR島本駅、阪急水無瀬駅を擁する人口約3万3千人の小さな町です。その広報誌が6月号の特集でトイレを選んだ。
防災の話でいちばん後回しにされてきたことを、いちばん前に出した。それだけのことかもしれません。
でも、大切なことほど言いにくかったりします。食料や水の備えを「3日分」と言うのは簡単です。トイレをどうするか、具体的に答えを持っている人はどれくらいいるか。
島本町の広報誌は、その答えを持っていない人に向けて書いています。かっこよくなく、でもちゃんと正面から。それが「避けられないのハナシ」というタイトルの意味だと思います。