2026/06/27
マシンピラティスが郊外にやってくる――ローカルニュースのデータが示す、フィットネスの”次の主戦場”

ある日、大阪郊外のローカルニュースをまとめてチェックしていたとき、ひとつの開店情報が目に留まりました。「南茨木駅前にマシンピラティス×ワークアウトスタジオがオープン」。そういえば先週も吹田で似たような記事を見た気がする――そう思いながらデータを掘り下げてみると、同じ一日に収集した大阪郊外のローカルニュース約950件の中に、ジム・フィットネス・ピラティス関連の開業情報が複数含まれていました。吹田、茨木、交野、大阪狭山、河内長野……。北摂から南河内まで、エリアを問わずバラバラと点在している。これは偶然でしょうか、それとも何かが動いているのでしょうか。
全国では今、何が起きているのか
まず大きな絵を確認しておきます。
マシンピラティス専門スタジオが日本で本格的に広まり始めたのは2019年ごろ、海外大手ブランドが相次いで日本に上陸したタイミングです。その後コロナ禍での健康意識の高まりと、K-POPアイドルやSNSによる拡散が重なり、2021〜2023年にかけて爆発的な拡大期を迎えました。主要ブランドの中には、2024年の1年間だけで店舗数を倍増させたところも複数あります。
24時間ジムも同様です。2024年8月時点で全国のフィットネス施設数は12,500を超えており、そのうち新規開業の約7割が24時間型。チョコザップに代表される「コンビニジム」業態は、月額3,000円台・手ぶら・着替え不要という敷居の低さで、これまでジムに通わなかった層を取り込んでいます。フィットネス市場全体の規模は2024年度に7,100億円超と、過去最高を更新する見込みです。
つまり、フィットネス産業はコロナ後の最大拡張局面にあります。大阪郊外で目についた開業情報は、その全国的な波の一端なのです。
なぜ「郊外」に来るのか
ここで気になるのは、なぜ今、郊外なのかという点です。
フィットネス業態には、都心から郊外へと波及するときに3〜5年のタイムラグがあるとされています。新業態はまず首都圏・大都市の駅前や百貨店テナントで認知を確立し、競合が過熱してくると今度は賃料の安い郊外へとシフトしていく。エニタイムフィットネスが2010年代後半から地方展開を加速させたのも、チョコザップが都市圏から全国に広がったのも、この典型的な流れに沿っています。
そこに今、郊外特有の追い風が吹いています。空き物件の急増です。
メガバンク3行はこの数年で数百店規模の店舗削減を進めており、郊外の支店跡地が相次いで空いています。実際、大阪狭山市では三井住友銀行の金剛支店跡地への24時間ジム出店が発表されています。銀行の跡地はセキュリティ設備が整っており、無人運営を前提とするコンビニジム系と相性が良い。また、閉店したチェーン飲食店や空きテナントも郊外では増加傾向にあり、フィットネス施設にとって「拾いやすい物件」が豊富に出回っています。
加えて、郊外の主力購買層とターゲットが一致している点も見逃せません。マシンピラティスの利用者は女性が約75%、30〜40代以上が半数近くを占めます。郊外の住宅地に多く住む、子育てがひと段落しつつある世代や、健康管理に意識が向き始めた中高年層と、ほぼそのままぴったり重なります。
「遅れてくる波」は本物か
ただし、冷静に見ておくべきこともあります。
都心から郊外への業態波及は、必ずしも「需要があるから来る」とは限りません。都心での競合過多により「席がなくなったから来る」という側面も大きい。そして郊外には、見えにくいリスクがあります。人口減少や高齢化が進むエリアでは、会員の継続率が伸びにくく、客単価も上げづらい。24時間ジムは省人化によって固定費を抑えられる半面、サービスの質で差をつけることが難しく、価格競争に陥りやすい構造でもあります。
業界全体で見ても、新規開業が急増する一方で廃業も出始めており、黒字と赤字が二極化しているというデータがあります。フィットネスの郊外展開は本物のトレンドですが、「来た」こととことと「根付く」こととは別の話です。
この先どうなるか
短期的には、大阪郊外へのフィットネス出店はさらに続くとみられます。特に新築マンション供給が継続している北摂エリアや、再開発が進む沿線では出店余地が残っています。
中期(3〜5年)では、過当競争による淘汰が始まるでしょう。生き残るのは、「体験価値を売れるスタジオ」か「圧倒的な低価格・利便性」のどちらかに振り切ったところだと考えられます。その中間にいる施設ほど苦しくなる可能性があります。
長期的には、フィットネス施設が郊外の「生活インフラ」として定着するシナリオも十分あり得ます。銀行のATMが身近にあるような感覚で、徒歩圏内にジムやピラティスがある状態が普通になる。それは単なるフィットネスブームの終着点ではなく、郊外の商業地図そのものが書き換わることを意味します。
ローカルニュースに流れてきた、一件の「開店情報」。それは全国規模の産業構造の変化が、ひとつの郊外の街角に届いたサインだったのかもしれません。